卒論 Tips5 文系の強い武器・・・アンケート編
はじめに
文系のアンケートは、理系の実験に相当するものであり、卒業論文を制作する上で強い武器になりうる。
理系の人が、実験をしてデータを集めて分析すれば、それなりの形になるように、文系の人もアンケートを行えば、オリジナルデータが収集でき、表やグラフ、統計手法を使って分析することにより、それなりの形ができあがる。
資料を地道に整理して何かを考察するのに比べると一見オリジナリティは際立って見える。
また、比較的容易に“発見”をする事もあるだろう。
そのような意味で文系の強い武器=アンケートを使わない手はない!
(注:もし、自分の卒論テーマではアンケートといった手法は馴染まないと考えている人がいたら、逆説的だが、是非このTipsを読み進めていってほしい。具体的な事例をベースに書いているので、その中から新しい発見があるはずだ。)
しかし、“強い武器”ではあるが、実際は、理系の実験と同じく、そうそう簡単ではない。
アンケートの企画・設計は大変だし、留意事項も多く、送付・回収という手作業も発生し、額に汗して集めたデータを入力しなければならない。
また分析も色々な面で大変である。
数学が嫌いで文系に入った方は、“統計学”の壁にぶつかり苦しむかもしれない。
そんな訳で、ここでは、アンケートを実施する際のポイントをいくつかに絞って解説してゆきたい。
大項目は以下の四つ。
- 企画・設計段階
- 母集団とサンプリングの話
- アンケート紙作成で気をつける事
- アンケート分析・統計の話
想像力を働かせて~企画・設計段階
アンケートを行うにあたり必要なことは、アンケートで何を調べるのかを明確にすることである。
通常、仮説があり、それを検証するために行うものである。
では、仮説からアンケートの企画・設計をどのように進めてゆくのだろうか。
ここからは、理解し易いように簡単な例をもとにみてゆこう。
疑問例:携帯とPHSを使っている人の差は何か?
を学生を対象に明らかにする事を卒論のテーマに選んだとしよう。
そこで、アンケートを設計するには、あなたなりの仮説(答え)がまずなければならない。
そして、その仮説を検証できるように設問を企画設計する必要がある。
あなたは次のような仮説をたてたとしよう。
仮説例:「おこずかいの多い少ないによって選択に差が出る」
そうなると、自ずと設問は決まってくる。
- Q1 あなたは携帯とPHSどちらを使ってますか?
- Q2 あなたのお小遣いはいくらですか?
この2問を実施してみて、以下のような結果が出たとすれば、大体仮説が正しかったといえる。
(あとは統計的な有意差を確認すればよい。)
しかし、このように、うまくいけばよいが、例えば以下のような結果が出たらどうだろうか?
「仮説は検証できませんでした。すみません。」という訳にはいかない。
現実的に、もう一度新たな仮説を立てて、もう一度アンケートをやることは困難だ。
だからこそ、アンケートの企画・設計段階では色々なケースを想定して想像を膨らましてみる必要がある。
よく言われるように、“なぜ?どうして?”を3回は繰り返して考えてみよう。
- 男女差が(男性-携帯で女性-PHS)効いているのではないだろうか?
- アルバイトの有無?
- 友人がどちらをもっているか?
- 徒歩圏内の専門ショップの有無?
- 高校生はお小遣いの大小と比例するが大学生は金額の大小よりもバイトの有無が比例する?
- 都心はお小遣いだが地方はアンテナが近くにあるかどうか?が効いている?
- 保有履歴-何台目か?
- ・・・・
このように細かい仮説があるからこそ、フェイスシート(アンケート対象者の属性を書いてもらう欄)や同時に聞くべき設問を企画設計することができる。
(フェイスシート)で必要となる設問項目例
- 男/女性別
- アルバイトの有無
- PHS/携帯を持っている友人の割合
- 徒歩圏のショップの有無
- 高校生/専門学校生/大学生
- 何台目(保有履歴)
- ・・・
アンケートを企画するには、結論について予め検討がつき、それをどのように分析をするのかまで想定しておかなければならない(上記は全てクロス分析の対象となる)。
だからこそ、想像力を働かせ、つきつめて考えに考えてみる必要がある。
しかしながら、想像するにも限界があると言われるかもしれない。
また自分とは異なる属性の人を対象にする場合、想像の及ばない事象がある可能性は高い。
男の大学生が若い女性の結婚観について調べようとして想像力を働かせても、限界があるかもしれない。
通常、一般企業がマーケティングでアンケートを行う時には、定量調査であるアンケートの前に必ず定性的なプレ調査(座談会、グループインタビューと称するもの)を実施するものだ。
少人数の対象者を集め、テーマについて自由に語ってもらい、その中から、ある程度の想定をつけるのだ。
アンケートはあくまでもその想定を定量的に把握するために行われる。
これと同じようにアンケート調査の前にも十分なプレ調査が必要であろう。
設問・選択肢の企画と分解能向上(プレ調査)
次に、プレ調査についみてゆこう。まず、プレ調査は何の為に行うのだろうか?
それは
- どのような設問・選択肢が必要かを探る
- 定量的な選択肢の検討をつける
ために行うのである。
1番目の“どのような設問・選択肢が必要か...”は、すなわち仮説を明確にすることである。
前項の例でいうと、対象となる学生に“どうして携帯/PHSを使っているのか?”を聞いてみるのである。
その際、聞く側に多少のテクニックが必要となる。
先述のグループインタビューの場合も、司会役には多少の質問力が要求される。
簡単に言えば
「突っ込んで聞く」
「なぜ・どうして?、5W1H」
を深堀りして聞くことで、どの程度、背景を探り出せるかが鍵となる。
- >その機種(PHS)がかっこよかったから・・・
- >使ってる友達がイイヨって言ってたから・・・
- >友人がみんなPHSだったから・・・
“広告よりも口コミに影響されやすい・・・”のか、
“友人が皆もっていて仲間はずれになりたくない・・・”心理が強いのか、
“お金がかからない”コスト面なのか選択の背景にあるものをどの程度探り出せるかで、アンケートのポイントも、考察すべき内容も異なってくるだろう。
また、質問力のテクニック的なことをいえば、
相手が“なんとなく~”と答えた時に、
“毎月のお小遣いは足りてる?”
“友達はどっちを使っている人が多い?”
等、水を向けてみる機転が必要である。
下準備としてお小遣いの額を予め聞いておけば、比較的少なめのコと多めのコで考え方が違う事を見抜けるかもしれない。
相手は聞けば何でもわかりやすく話してくれるとは限らないので、プレ調査では聞く側にある程度の力量が必要だ。
2.番目の“定量的な選択肢”についてであるが、設問の選択肢で定量的な答えを求める時、例えば“携帯のメールを週に何通位やりとりしますか?”という設問に対して選択肢を右図中のような数値枠で設定したらどうだろうか。
これでは分解能が低いと言わざるを得ない。
1~100回に集中していて、分析の時に的確な分析ができない。
この場合、もう少し回数の数値を低めに設定して右図のように設定するべきだったのである。
このように選択肢の数値を的確な範囲に設定する必要がある。
自分の常識だけではあてがはずれることもあるので、このあたりの定量的な幅ついてもプレ調査で確認しておこう。
しょーもない間違いと、どうしようもない事設問・選択肢の企画と分解能向上(プレ調査)
アンケートを行う際に重要な事は“母集団の設定とサンプリングである”と社会調査の教科書には書いてある。
この母集団とサンプリングについて“実際のところどうなのか?”を考えてみたい。
例えば、あなたがアンケートを実施したとする。
同じ大学の4年生男子を中心にお願いして数十人のデータが取れた。
その結果をもって
「男性はみかんよりリンゴの方が好きだ」
といった結論を導くことが可能であろうか?
アンケートで“みかんとリンゴどちらの方がより好きですか?”と聞いた結果、“リンゴ”の方が多かったとしても、・・・答えは“NO”である。
皆さんは、どうして“NO”だか、かわかるだろうか?
それは以下の点で重要な間違いを犯しているからである。
- 母集団設定の間違い
- サンプリング上の間違い
世の中全ての男性を対象として語ろうとしているのに、日本の、それもある地区の大学生にしかアンケートを行っていない。
愛媛の男性に聞いたらどうなったか?
アメリカ人やフランス人、インド人の男性にも聞いてみたら違う答えがでるかもしれない。
表:母集団、サンプリング対象と、その結果「言える事」
母集団 | 必要なサンプリング | 言える事 |
---|---|---|
世界中の男性 | 世界各国からサンプリング | 男性は~である |
日本の男性 | 各都道府県からサンプリング | 日本男性は~である |
○△大学の男子学生 | ○△大学生の中からサンプリング | ○△大男子学生は~である |
教科書でいうところの“ランダムサンプリング”の考えでは、“対象とする母集団の全員のリストからランダムにサンプルを抽出して偏りがないようにアンケートしなければならない”のである。
例えば日本人を対象した場合・・・
- 47都道府県のばらつきがなく
(ex東京都に偏ることなく) - 県の中で市間のばらつきがなく
(ex南町に偏ることなく) - 町の中で丁目にばらつきがなく
(ex5丁目に集中することなく)
以上のような観点でバランスよくアンケート対象者をサンプリング(抽出)する必要があるのだ。
冒頭の事例で触れた、身近でとったアンケートから“男性はみかんよりリンゴの方が好きだ・・・”と言ってしまう間違いは少々極端な例であったが、これに類似する間違いは、往々にして見られるものだ。
だから、アンケートを実施する際は、「推測したい母集団は何か」をまず明確にすることが必要である。
- “日本人男性の嗜好”なのか?
- “全人類の男性の嗜好”か?
- “男子大学生の嗜好”か?
- “○△県の男子大学生の嗜好”か?
母集団をどう設定するかで、言える事も異なってくる(以下表参照)。
これを取り違えて、サンプリングした母集団からは言えない事、を言ってしまうのが、しょうーもない間違いである。
しょーもない間違いと、どうしようもない事
前述のような点に気をつけた上で“母集団からランダムサンプリングを行う”のが社会調査(アンケート)の理論である。
しかし、現実はどうだろうか?
“大学生を対象に・・・”といった時に、日本全国の大学生の名簿を集めて二段階抽出法に則り厳密な抽出を図り、対象を選定して、彼らにアンケート帳票を郵送して・・・といった事が果たして可能だろうか?
これらは、全てコストと労力をどの程度かけられるのかにかかっている。
教授の中にはこうお嘆きの方もいらっしゃるかもしれない。
“最近の学生は、友人のつてでアンケートをやって、サンプリングの何たるかも知らずに、のうのうと、アンケート分析しました・・・というが、偏りが入ってるかもしれないだろう・・・”と。
ここは皆さんが所属する担当の先生の考え方にもよるが、「社会調査の理論に厳密に基づいてやらなければアンケートとは認めないし、その結果も無意味であり、論文として認めない!」
と言われるのであれば、労力とコストをふんだんに使ってやるか、もしくは、自分が出来る範囲で理論に則った方法でやろう(例えば、同じ大学4年生の名簿位は手にはいるだろう。ここからランダムサンプリングを行い、選ばれた対象にアンケート帳票を渡して書いてもらう。この程度の範囲であれば可能であろう)。
だが、思うに、ランダムサンプリングを如何に等間隔抽出法や多段階抽出法を使って行っても偏りは残るものだ。
例えば、選挙人名簿を使った国家レベルの大規模の社会調査であっても、それに答えてくれる人は“時間がたくさんある暇な人”の可能性は高く、“時間よりも謝礼が欲しい特殊な層”かもしれない。
日本人の平均像を示しているかというと、平均年収が低い層に偏っているのかもしれないのだ。
結論:しょーもない間違いさえしなければOK
以上のように考えると、多少、サンプリングが厳密でなくても(インターネットアンケートであったとしても)・・・、例えば、某大学内だけでアンケートを実施して、“某大学内の男性は・・・”としか言えないハズなのに、“日本人男性は・・・”と論じてしまうような“しょーもない間違い”さえしなければ、それは、大学生レベルの卒論アンケートとしては、どうしようもない範囲の事になると考えられる。
最後に留意点として、しょーもない間違いをしないためには、自分のアンケートの母集団とサンプリングの限界を知った上で、きちんとそれらを明記して、論ずるということが必要である。
アンケート紙作成で気をつける事
次に、事前準備、仮説に基づいて、アンケート用紙(調査表)を作成する。作成の仕方について、詳細は説明しない。
ここでは、ちょっと気をつけておきたい言葉(ワーディング)について、触れておこう。
アンケートを設計する際に、どのような質問を投げかけるかは非常に重要であり、結果に重大な影響を及ぼす。
アンケートを設計するのが初めてだという人は、特に考えてみてほしい。
例えば、以下のような質問があった場合、どうだ感じるだろうか?答える立場にたって考えてみよう。
Q:あなたは、外見を非常に気にしますか?
Q:あなたは、外見をとても気にしますか?
Q:あなたは、外見をかなり気にしますか?
上記は“外見を気にする”という度合い・程度について、聞いた設問であり、いずれも、その度合いが“高い”ことを聞いている。
では、どの言葉を使えばよいのだろうか?
(出所:シストラットコーポレーション)
上記は、意識の距離について、示したものである。
同じ事象について、質問を行った場合でも、上記のようにその言葉の持つ雰囲気により、答える際に差がでてくるのだ。
つまり、意図的に、回答の比率を誘導することもできる。
このあたりのワーディングも持つ意味についても常に意識し、考えながら、質問を設計しよう。
詳細は、上記のマーケティング・コンサルティング企業“シストラットコーポレーション”のサイトを参照してほしい。